三亜市内から車で走ること1時間あまり、山間の道はすっかり整備されて快適なドライブを楽しむことができる。今回訪れる「檳榔谷少数民族村」は、24.6ヘクタールの広い熱帯雨林の中で、黎族・苗族の民族文化を体験できる海南島最大級のテーマパーク。以前、三亜近郊にもちょっと怪しげな少数民族村がいくつかあったが、徐々に淘汰されてしまったようだ。
正面ゲートには、巨大なトーテムポール風な門がそびえ、門をくぐるとスタッフが檳榔(ビンロウ:覚醒作用のある椰子の実)の首飾りをかけてくれる。
敷地内の各建物は古来の様式で建てられ、往年の“村”を完全に再現している。それぞれの家屋で生活様式や歴史、文化の紹介がされていたり、独特な民族料理や果物、工芸品や織物などが販売されていたりする。印象的だったのは、90歳のおばあちゃんが織っている黎族伝統の布「黎錦」。これはカラフルでお土産にいいかもしれない。海南島でしか手に入らないし、お値段も安いものでは20元くらいからと、観光地にしては比較的リーズナブルな物もあり良心的。
1日に4回ほど中央ステージで演じられる黎族、苗族の音楽や舞踊のパフォーマンスはお見逃しのないように。収穫の喜びや若者たちの恋の語らい、結婚の儀式などを表現した各演目は、レベルもなかなかのもので見入ってしまう。座席はすぐに満員になるので、数十分前にはなるべく前の席を確保しておくことをお勧めする。
「檳榔谷少数民族村」を出て、さらにカーブが続く道路を車で40分ばかり走ると、保亭県の象徴である1,107mの「七仙嶺」が見えてくる。ラクダが何頭も連なったような形をした特徴的な姿の山なので、すぐにこれが七仙嶺と分かる。
七仙嶺の麓は海南島有数の温泉地である。昔からの湯治場として島の人々を受け入れてきたいくつかの温泉宿は今でも残っていて、きれいな渓流沿いにいくつも露天風呂が作られている。源泉は90度を超え、欝蒼とした熱帯雨林に囲まれた野性味あふれる温泉だ。
せっかく海南島を代表する名峰まで来たのだから、登ってみようと地元のガイドに尋ねたところ、頂上までは片道3時間はかかるらしいので、ダイジェスト版として途中まで歩いてみることにした。
登山道沿いには熱帯特有のシダ類や蔓をたくさんまとったガジュマルのような大きな樹木が立ち並び、川沿いの一見涼しげな山道なのに、30分も歩くと汗が噴き出てくる。熱帯雨林なので多少の蒸し暑さはしょうがない。片道1時間ほどの行程の中で、いくつか小さな滝も現れるので、顔を洗って小休止をしながらゆっくり歩く。道はかなり手を加えられ整備されているので歩きやすい。帰り道は同じ道を戻った。
この地域にお泊まりの予定でなくても、タオルと水着はお忘れなく。ウォーキングの後の温泉は格別だし、日本の温泉と違って入浴は必ず水着着用だからだ。
海南島と言えば“青い海”、ホテルも“海辺のデラックス・リゾートホテル”しか思い浮かばないかもしれないが、ここには、七仙嶺の神々しい姿を仰ぎ見ることのできる素敵な“熱帯雨林ジャングル・リゾートホテル”がある。
東京ドーム3個分の敷地内には、20以上の天然温泉露天風呂と温水プール、242室の客室。ビルディングタイプの本館客室と別荘タイプの客室があるのだが、ぜひとも別荘タイプの客室をお勧めしたい。客室は60㎡とゆったりとして広く、バルコニーには天然温泉の露天風呂が設けられているので、熱帯の森林を眺めながらお風呂を楽しむことができる。ブラインドもあって、プライベートは守られるが、夜間に利用する際、明りを灯すと虫を呼びよせることにもなってしまうので、虫の苦手な方にはちょっと頭の痛いところかもしれない。ホテル内の移動には電動カートを利用する。電話1本で客室まで迎えにきてくれる。
朝食はリバーサイドのテラス・レストランでのブッフェ。マイナスイオンいっぱいの空気が清々しく、いろんな種類のオーガニックなメニューをいただき、朝から思いっきりリフレッシュ!できる感じがイイ。
七仙嶺地区は山の幸「山菜」の宝庫であり、黎族ゆかりの伝統料理も味わえる。ぜひともご賞味いただきたいのが、「竹筒飯」(竹筒に詰めて調理するおこわ)と「山蘭酒」(黎族のお酒)。おこわもお酒も、今ではたいへん生産量が減少している山蘭米(さんらんまい)という貴重なもち米(糯米)を原料としている。おこわは、炊きこまれている山菜や地鶏の香りも相まってなんとも味わい深い。お酒はといえば、日本の濁り酒に似ているような色合いだが、葡萄のようなフルーティーな香りで、少し甘くて、いくらでも飲めてしまうような軽いお味である。
ちなみに、海南島はお茶の産地でもあるが、昔、黎族はほとんどお茶を飲まず、お茶のかわりにこの山蘭米のお酒を好んで飲んでいたといわれる。
今回は訪れることができなかったが、「YANODA熱帯雨林文化旅遊区」も人気スポットだ。体験型のテーマパークで、スタッフが同行して散策しながら植物の説明などをしてくれる。各国語の(日本語も)ルートマップも完備しており、スニーカー程度で気軽に熱帯雨林ウォーキングを体験できること、送迎バスもあり、三亜泊でも日帰りで足を延ばせることなどから、連日の賑わいを見せている。
この地域の黎・苗族特有のお祭り「嬉水節」も観光客に人気らしい。旧暦の7月7日に行なわれる「海南島の水掛け祭り」とも呼ばれるお祭りで、その光景は新聞などで全国報道もされたりする。海南島では珍しい“山岳コース”のゴルフ場「七仙嶺ゴルフクラブ」も数年前のオープンし、トリッキーなコース設定と居心地の良い施設を備えた、海南島の“隠れ家ゴルフコース”的存在になりつつある。
県全体をとおして標高が高い為、三亜に比べて夏が涼しく、島内では以前から避暑地として愛されてきた。近年では“大自然と温泉”というアドバンテージのみならず、“少数民族のおおらかで豊かな文化に触れられる地域”として、島外観光客からの注目度があがっている。人々の視線は“海だけではない海南島の魅力”を求めて、沿岸から内陸にも向けられ始めているようだ。