故郷を想う華僑の心　トップクラスの教育水準

2 年前に全面開通した海南島東環高速鉄道の始発駅海口東駅を午前9 時20 分に出発、あっという間の鉄道の旅はものの30 分で文昌駅に到着する。
車に乗り込み早速市内へ。市内までは整然とした街並みが続く。
最初に訪れたのは市内の学校。文昌中学（中学校と高校が一緒６年教育）は海南省トップ３に入る名門校である。車で学校の敷地内を走る。構内の道路の両側には市民球場かと錯覚を覚えるほどの大きなサッカー場と10 面以上のテニスコート、林立する教育棟のビル群。そのビルのすべてに人の名前が大きな文字で刻まれている。学校に寄付をした人々の名前である。文昌は古くから東南アジア各国へ移住する人が多く、とりわけシンガポールに住む海南人の大部分は文昌にルーツを持つといわれる。
校長の潘正杯氏によれば開校は1804 年（清朝）、在校生数は5,500 名、教職員の数だけでも320 名を数え、中国の名校トップ50 にランクインしている。北京大学、清華大学など名門大学に毎年600 名を合格させる名門校である。海南省全土から優秀な学生が集まる文昌は、海南島の“教育の都”なのだ。

「海南島の椰子の半分は文昌にある」

文昌は“椰子の郷” と呼ばれている。海南島と言えば椰子の樹のイメージだが、実は海南島の椰子の自生地は文昌に集中している。
古来「海南島の椰子の半分は文昌にある」と言われるほど、いたるところに椰子の樹である。東海岸の東郊椰林はとくに集中しているエリアで、文昌全体の椰子林面積の約半分を占め、前述の古語から換算すると「海南島の椰子の四分の一が生えている」計算になる。東海岸数百キロの海岸線にうっそうと茂る緑の椰子林は壮観だ。
現在この地域にはロケット基地の建設が進んでおり椰子の梢を揺らしてロケットが飛び立つ日も間近い。

「ハイナンチキンライス」のルーツは文昌

タイやマレーシア、シンガポールで人気の「ハイナンチキンライス」は、文昌から東南アジアに渡った文昌出身者が故郷の地鶏を使った家庭料理をアレンジしたものである。
早速、八門湾マングローブ地区にある文昌鶏専門料理屋で食してみた。放し飼いにしている地鶏を茹でたスープで炊いたご飯と、一羽まるごとを茹でてぶつ切りにした鶏肉を特製のたれにつけていただく。日本の柔らかい鶏肉に慣れている私たちにはかなりの歯ごたえである。ジューシーな地鶏の風味が口に拡がり格別な味わいであるが、もはやこのような歯ごたえに慣れていない日本人には、さらに油で焼いてもらうのもお勧めだ。

文南老街

１階が商店になっている、下駄を履いたような２～３階建ての家屋「騎楼」が連なる古い街並み「文南老街」。海南島では海口に有名な「海口騎楼老街」があるが、この文昌の「文南老街」も１００年以上前の街並みである。ヨーロッパ的で洗練された美しさ、海口に比べるとなんだかセピア色のイメージがする。ほとんどの店舗が一度東南アジアに進出した華僑が故郷文昌に戻り、錦を飾ったものだそうだ。
ある有名な鶏飯店は、文昌を出てシンガポールでハイナンチキンライスの料理屋を出店して成功し、再び故郷に戻り文南老街で鶏飯店を出すという文昌華僑の理想的な生き方を象徴するようなエピソードのあるお店である。
昔は茶館、飲茶レストラン、薬屋、骨董屋といったお店が並んでいたそうだが、現在は洋品店、喫茶店、ドラッグストア、写真スタジオ、美容店、バイク屋といった今風の商店街に様変わりしている。

文昌は宋三姉妹のルーツ

「宋氏三姉妹」、近代史にこれほどまでに影響を与え、波乱に富んだ生涯を送った姉妹は世界でも稀である。長女宋靄齢は山西省出身の財閥孔祥煕と、次女宋慶齢は日本に亡命中だった孫文と東京で結婚、そして三女の宋美齢は孫文の死後国民党の領袖に登りつめた蒋介石の妻となり、中国変革の時代の真っただ中を生きた三姉妹。三人の父・宋耀如は海南島文昌市の中心から70kmほど離れた村の貧農韓家に生まれ、少年時代に宋家の養子となり、アメリカで教育を受け牧師となった。その後帰国して実業家として成功した人物。
宋耀如の旧居は記念館として保存されていて、中華人民共和国成立後、三姉妹のうち新中国に残り中央人民政府副主席に迎えられた宋慶齢の柔和な姿の像が建てられている。

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